
III. 性犯罪の被害者
背景
性犯罪は被害者にとって最も身体的、精神的ダメージの大きい犯罪のひとつです。被害者にとって受けた被害について話すことは大変な困難を伴いますが、性犯罪においてはひときわ苦痛となります。これは性について話すことは通常でも困難を感じる人が多いからですが、なによりも身体的に危害を加えられたことによるショックに加えて、また危害を加えられるのではないか、殺されるのではないかという恐怖があるからです。
性犯罪事件における警察機関の重要な職務には、1)被害者の保護、事情聴取および支援、2)犯罪捜査および加害者の逮捕、3)加害者起訴にあたっての証拠の収集と保管が挙げられます。
性犯罪の捜査と起訴においては被害者が唯一の証人であることが多いため、他の事件よりも被害者の重要性が高くなります。しかし、残念なことに被害者は加害者の報復を恐れて捜査への協力に消極的なことが多いのです。
性犯罪の被害者に植え付けられた複雑で深い心の傷は、その犯罪に遭遇してしまった人間にしか理解できないものです。しかし、最初に駆けつけた警察関係者の対処の仕方により、被害者が回復に向けての第一歩を踏み出せるか、または長い間精神的苦痛と不安を抱いて生きることになるかが大きく左右されることになるのです。
性犯罪の被害者への対応策
- 被害者のあらゆる感情的な反応を予期しておく。無条件な支援の態度を維持し、被害者が泣いたり、怒りをぶつけたり、叫んだりするような激しい感情を表わせるようにする。
- 被害者が落ち着いて平静を保っているように見えても、性犯罪が行われなかったということではない。被害者は単にショック状態にいる可能性がある。性犯罪における虚偽の告発の割合は、他の暴力を伴った犯罪と同様2%と大変低い。
- 平静をもって被害者に接する。怒りを表わしても、いたずらに被害者の傷を深めることにもなりかねない。
- こちらから家族や友人に連絡して欲しいか訊ねる。
- 性犯罪専門のカウンセラーに連絡できる旨を伝える。カウンセラーが男女どちらの性別がいいか確認する。さらに、警察関係者がどちらの性別の方が話し易いか訊ねる。
- 度を越えて保護しているような態度を控える。
- 被害者が自分自身認めることが困難な事件の詳細を一刻も早く忘れたいと思い、また実際忘れてしまうのはしごく当然のことである。
- 医師の診察(特に身体内部の傷害の確認)を勧める。検査の結果は、逮捕・起訴への証拠提供につながるが、被害者にとっては事件で身体を辱められた上に医療関係者の前で検査をされることに屈辱や極度の羞恥心を感じることが多い。法廷上の手続きでどのような検査が行われ、それがいかに重要であるかを説明する。
- 被害者・患者が病院を訪れる旨を病院側に伝え、待合室としての個室を用意してもらう。病院まで付き添う。危機介入カウンセラーがいない場合、被害者の検査が終わるまで待ち、病院から被害者の目的地まで付き添う。
- 被害者の個人的な不安や恐れ、対人関係に及ぼす影響について考慮する。犯罪による妊娠やエイズ等の性感染症への感染の可能性、また配偶者、交際相手や両親の反応等、被害者にとって不安は尽きない。また報道機関が被害者とその事件を公表するのではないか憂慮し、近隣者や職場仲間の反応や批判にも大変敏感になっている。
- 事情聴取では、特に心配りを怠らないようにする。被害者が事件の詳細を語る関係者の人数を最小限に抑える。できれば、最初の事情聴取と以後の捜査を担当するのは同一警察官ひとりであることが望ましい。
- 被害者の質問に答え、必要な支援を提供する。
- 被害者にカウンセリングを受けるように勧める。今まで取り扱った犯罪における被害者の多くがカウンセリングを受けることによって不安が軽減されたことを説明する。犯罪後数ヶ月は精神的後遺症を経験するであろう旨を説明する。必要と思われるサポートサービスを紹介する。